Black Baccara

特に会話をしていたわけではないけれど、

二人の間にふと沈黙が走り、相手の意識が別の場所へ移ったことをぼんやりと知る。

 

黒子は咥えていたストローから唇を離し、釣られるように視線を上げた。

相手の見つめる先に何があるのか、今さらすぎて振り返る気にもならない。

 

「ファンの子ですか」

 

抑揚なく尋ねれば、白々しい返事が返ってくる。

 

「よく分かったスね」

 

その表情が雑誌でよく見かける余所行きのものに切り替わり、

相手に抱く特別な感情を差し引いても、キレイな顔立ちをしていると思う。

 

さらにその顔で意味ありげに目配せをすれば、きゃぁと後ろから黄色い声が響き、

予想通りの展開に黒子はふっと笑みを零すと、再びストローへ唇を寄せた。

 

モデルという職業柄なのか、持って生まれた性質なのか、自分の魅せ方をよく知っていると思う。

けれどそれは良くも悪くもこちらに跳ね返り、人を選ばない仕草も、惜しみなく吐かれる台詞も、時に醜い感情を呼び覚ます。

 

「可愛いっスね」

 

視線を戻した黄瀬がぽつりと零し、その目に残る色香に悋気する。

この人の言動に悪気など微塵もないと分かっていても、その感情を抑えられない。

 

「よかったですね」

 

ほら、こうやって。

こんな分かりやすい返し方、心を晒しているようなものなのに。

 

「ふぅん」

「なんですか」

「ただのファンサービスっスよ」

 

先ほどまでの色が消え、黄瀬がふわりと笑う。

 

「分かってますよ」

 

だから、余計にタチが悪い。

合わせられた視線を伏し目に逸らし、黒子は人知れず自嘲した。

 

「そうっスか?」

「えぇ」

「ならいいんスけど」

 

いつからこんな感情を抱くようになったのか。

いつになったら平然としていられるようになるのか。

 

考え始めれば際限なく、悪循環に陥っていく。

 

けれどそんなことを相手に気取られれば、

それこそ厄介なことになると知っているから、今はムリやり紛らわす。

 

黒子は以前の苦い経験を思い出して身震いすると、徐に視線を上げる。

するとそれを待ち構えていたように、こちらをじっと見つめる瞳に捕まった。

 

あ。

 

目が合った瞬間、思わず心の内でそう零せば、

それを察したように黄瀬が小さく吐息を洩らす。

 

「やっぱり、分かってないっスよね」

 

 

 

 

 

マズい。

また、気付かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Black Baccara

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥ はッ も‥放して‥くださ‥ッ」

 

圧し掛かる黄瀬の身体を引き剥がそうと、両手でその肩を押し返しても、

膝裏に手を掛けられ、その上から全体重を掛けられては、いくらもがいてもその腕から逃れられなかった。

 

「アンタもほんと学習しないっスね」

 

腰を引けば引いた分、さらに奥へと侵入してくる熱が、

腸壁を押し拡げ、その感覚に息が苦しくなる。

 

「ハッ‥ ッん‥ も‥ ほんとに‥ 、やめ‥‥ッ」

「こんなにナカ熱くしてんのに?」

 

揶揄するように黄瀬が口元に笑みを浮かべ、黒子はぎゅっと唇を噛み締めた。

 

すでに何度も熱い飛沫を体内に吐き出され、

腹の中に溜まり続けるそれが内蔵を迫り上げている気がする。

 

けれど意図して一度も引き抜かないのだろうから、

この行為に相手が満足するまで付き合うしかなかった。

 

ぐっと黄瀬がさらに奥へと腰を進め、その先端が前立腺を掠める。

 

「‥ッうあ‥ そこ‥やめ‥ っ、動かな‥」

「そんなこと言って、ほんとは好きっスよね、ここ」

 

黄瀬はそう言うと、容赦なく黒子の一番弱い部分を擦り上げ、

その場処だけを穿つように繰り返し身体を揺すった。

 

「ひッ‥ う、 ァ、‥んッ、‥‥っ」 

 

黒子の肢体がガクガクと震え、縋るように背中へと回されていた腕が力なく落ちる。

黄瀬はその手に自分の指を絡めると、シーツへ縫い付けるようにキツく握りしめ、唇を重ねた。

 

「んっ‥‥」

 

呼吸を奪うように激しく、けれどねっとりと口腔を蹂躙する。

何度も角度を変え、執拗に貪り、境目の感覚がなくなるほどの口付けに黒子が苦しげに息を詰めると、その様子に黄瀬はようやく唇を解放した。

 

「ハッ…」

 

空気を求めて黒子が大きく息を吸い込み、その反動で目尻に溜まった涙が頬を伝う。

黄瀬はそれを舌先で拭いながら、そっと耳元へ囁いた。

 

「そんなにオレが好き?」

 

思いがけない突然の問いに黒子がビクッと肢体を震わす。

 

「なに言って…」

 

冗談混じりのいつもの揶揄だと反射的に答えると、

合わせた瞳が思ったよりも真剣で、あっさりと雰囲気に飲み込まれた。

 

「だったら毎回、なにをそんなに嫉妬してんスか」

 

黄瀬は絡めていた指先を解いて黒子のうなじへ忍ばせると、

襟足を取って、強引に顎を上げさせた。

 

「ん、ァッ‥、して‥ません…っ」

 

それを聞いた黄瀬は、喉元に喰らいつくようにして噛み付き、

くっきりと残した紅い痕に舌を這わせながら、首筋を舐め上げた。

 

「オレのことが好きでしょーがないくせに、よく言う」

 

薄っすらと微笑み、当然のようにそう言い切る。

その自信が羨ましくも悔しくもあって、黒子は黄瀬を睨め付けた。

 

「違わないっスよね」

 

けれど黄瀬がそれに怯むはずもなく、

襟首に掛けていた腕に力を込められ、強引に上体を起こされた。

 

「ァ、ん…っ」

 

繋がったまま太腿の上に向かい合わせに座らされ、

突然変えられた体勢に黒子の口からひと際ツヤのある嬌声が洩れる。

 

黄瀬はその声音にぶるっと肢体を震わせ、

尾骨から背筋をなぞるようにして腕を回すと、逃げる腰を引き戻した。

 

「ひ、ぁ…ッ」

 

すでに力の入らなくなった肢体では重力に逆らえず、

次第に深く喰い込んでいく肉杭に、黒子の身体は震えを止められなかった。

 

「でもオレはそれ以上にアンタのことが好きでしょーがないって、」

 

首筋にキツく回した腕で身体を支えるのが精一杯の黒子に、

黄瀬は分かりやすく声色を変え、煽るように耳元で低く囁く。

 

「知ってるっスよね?」

 

響いた重低音の台詞にゾクリと背中を戦慄かせた黒子は、

その反動で収縮した内壁と、それが与える刺激に耐えられず忽ち追い詰められた。

 

「は、ぁッ‥ 」

 

黄瀬が双丘に両手を掛け、左右に開きながらぐっと腰を突き上げると、

引き攣った悲鳴とともに黒子の背中がキレイな弧を描き撓る。

 

黄瀬はそれを片手で支え、空いた反対の手で熱り立つ中心を擦り上げた。

 

「ハ‥ァッ も、ほんと‥に、やめっ‥ ‥っ」

 

黒子が苦しげに息をつないでも黄瀬がそれに構うことはなくて、

ヌルヌルと淫水を滴らせる鈴口に親指の爪を喰い込ませ、立て続けに攻めた。

 

「ンッ!…ん、ぁ…っ」

 

強烈な刺激に黒子が咄嗟に黄瀬の肩を噛んで嬌声を堪えると、

それでも洩れる喘ぎに耳を寄せて、黄瀬は責めるように呟いた。

 

「なら、アンタはどうしたらオレを信じるんスか」

 

顔を見なくてもその表情が分かり、身体が強ばる。

 

「言葉で言ってもダメ、身体に教え込んでもダメ、だったら憶えるまでもっとひどく抱こうか?」

 

ハァハァと肩で呼吸していた黒子の息が止まり、ごくりと喉が鳴る。

それを知った黄瀬は再び黒子の襟足を取って、視線を合わせた。

 

「それも気に入らない?」

 

そう聞かれて答えられるはずもなく、

感情が制御できるなら最初からこんなことになっていなかった。

 

「信じてないわけじゃ…」

「そんなこと知ってる」

 

言い訳にも似た言葉はすぐさま一掃され、

見つめ合う二人の間にどうにもならない沈黙が流れる。

 

続く絶え間はいつまでも終わりが見えず、

見かねた黄瀬は見せ付けるように舌を伸ばした。

 

「答えないなら続けるっスよ」

 

黄瀬はそう言いながら黒子の固く凝った胸の飾りへ舌を這わせ、

何度も口に含んではその場所を執拗に愛撫した。

 

「ッん、は…っお願い…ですから…っ」

 

淫らな水音と共に、手の中でさらに張り詰めていく熱と、荒くなる息遣いに黄瀬はくすりと笑う。

 

「相変わらずココ、弱いっスね」

 

先端から止め処なく零れ落ちる蜜液を指に絡め上下に激しく扱きながら、

黄瀬はいつもより強く胸の突起へと歯を立てた。

 

「ん、や、っ…」

 

それに合わせ下からぐっと前立腺を突き上げると、

瞬く間に手の中で黒子の先端が爆ぜ、熱い体液が黄瀬の指を濡らした。

 

「―――― ッ」

 

黄瀬はそれを躊躇いなく口に運び、指と指の間までキレイに舐め取る。

そしてそのあとで、黒子の項に手を掛け、口付けを迫った。

 

「やめ、‥ 汚な‥っ」

「アンタのじゃないっスか」

 

黄瀬はそれだけ呟くと、嫌がる黒子を無視して強引に唇を奪った。

 

そのまま限界まで昇り詰めた自分の雄を解放するように、

何度も下から突き上げては、イったばかりで過敏になっている黒子の胎内を凌辱する。

 

「んっ、は、ァ…ッん、や…っ」

 

洩れる抗議の声を唇で塞ぎ、抵抗する身体を抑え付け、

決して手を弛めようとはしない黄瀬に、黒子はその時が来るまで、ただされるがままだった。

 

 

 

 

 

 

 

この目に何を映していても、この口が何を語っても、

心を占めるのはたったひとりで、それが揺らぐことはない。

 

そう分かっていてもなお、信じるに足りないと言うのなら、罪の所在はどちらにあるのか。

 

ずるりと黄瀬が肉杭を引き抜くと、

黒子の内側からドロリとした白濁が溢れ出る。

 

泡立つそれを掬い上げ、二本の指を挿し込んでゆっくりと後孔を開くと、

自分の吐き出した大量の残滓がドロドロと体内から流れ出し、手のひらを汚した。

 

さらに奥まで指を突き入れ、左右に大きく押し拡げる。

すると零れ出た精液は手のひらから溢れ、手首を伝った。

 

人の想いは貪欲で、罪深い。

黄瀬はその様子をじっと見つめながら、無意識にポツリと呟く。

 

「いっそ孕めばいいのに」

 

そしてそう口にしたあとで、自分も大概狂的だなと苦笑した。